認知症(判断能力の低下)
多くの人が普段から携帯電話の契約や住宅ローンによる不動産の購入など様々な取引行為をしています。これは判断能力があるからできます。認知症などで判断能力が低下すると、そのような取引行為が一人でできなくなります。
判断能力が低下の時期による対策として大きく分けて次のパターンがあります。
①将来的な判断能力の低下に備えて準備する場合→『家族信託』『任意後見』
②既に判断能力が低下している場合→『成年後見(任意後見)』
家族信託のイメージ
家族信託(民事信託)は、元気なうちに誰かに特定の財産を任せる制度です。制度というと難しく聞こえるかもしれませんが『託す人(委託者)と託される人(受託者)が特定の財産を任せる契約書を締結』すれば成立します。受益者という家族信託から生まれた利益などを受け取れる人も契約時に定めますが、実務上は委託者に設定しておきます。
受託者は委託者から任された財産を受益者のために信託の目的に沿って管理処分し、そこからの利益を受益者(兼委託者)に支払うイメージが一般的な家族信託です。
例えば賃貸物件の所有名義を有するAが、判断能力が衰える前に自分の息子Bにその賃貸物件の管理権原を正当に任せることができます。管理をBが法的権原に基づき実施し、そこからの収益をAが取得することが家族信託でよくあるケースです。
家族信託の主なポイント
家族信託の主な特徴は次の通りです。
①元気なうちに自分が信頼できる人に財産を任せられる
②財産管理・処分等の方法について契約内容で自由に決定できる
③特定の財産に限定して信託することができる
④信託終了時に指定した人に信託した財産を帰属させることができる
家族信託は、判断能力があるうちの財産管理から死亡(信託終了事由とした場合)後の財産の帰属までを定めておくことができる非常に便利な制度です。裁判所の関与も必要ありません。
不動産における家族信託のポイント
不動産を家族信託した場合には更に次の点にも特徴があります。
①不動産の所有者名義を受託者名義に変更する
②信託の登録免許税が大きく軽減されている。
③不動産取得税が非課税
通常、生前に名義を変更しようとすると贈与税、譲渡所得税、登録免許税、不動産取得税、などの多額の税金負担が生じます。しかし、家族信託の場合、贈与税や譲渡所得税、不動産取得税が課せられません。登録免許税も贈与による登録免許税率1000分の20に対し、家族信託による登録免許税率1000分の4(※土地1000分の3)になります。約5分の1で名義変更が可能です。
家族信託は、委託者兼受益者とし、受託者に管理処分権限を移行する性質よりこのような課税関係になります。
家族信託の注意点
家族信託の契約をする場合、次の点に注意しなければなりません。
①信託中の具体的な管理・処分方法の権限や義務、信託終了時の財産の帰属
②財産の移動を伴うことによる課税関係
家族信託は委託者と受託者が自由に信託契約の内容を決定できます。つまり、信託契約締結時点で将来的に起こり得る様々な出来事を想定して権利や義務を規定しておくことが必要です。抽象的で曖昧な契約をした場合、実際の信託財産の管理に支障が生じることがあります。最初が非常に肝心です。
税務上も気を付ける点があります。家族信託の登場人物は「委託者(財産を託す人)」「受託者(託される人)」「受益者(利益を受ける人)」です。法律上は、受益者に制限はありません。ただ、税務的には受益者と委託者が同じでない場合、贈与税の対象となります。贈与税は税率が高いため注意が必要です。それを回避するために実務的には委託者と受益者を同じに設定しておくことが一般的です。
成年後見制度と家族信託の違い
『成年後見制度』と『家族信託』には次のような違いがあります。
①成年後見制度は判断能力が既に低下している方が利用する
家族信託制度は判断能力が低下する前に利用する
②成年後見制度は財産全てが対象となる
家族信託制度は特定の財産に限定できる
③成年後見制度は家庭裁判所に申し立てる必要がある
家族信託制度は当事者間の契約により利用できる
④成年後見制度は後見人に専門家が就任する
家族信託制度は信頼できる人と契約することができる
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